【書評】カポーティの『ティファニーで朝食を』を読んでみた

 
ティファニーで朝食を (新潮文庫)

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今回、書評するのは、トルーマン・カポーティの短編小説『ティファニーで朝食を』です。
『ティファニーで朝食を』と聞いて、オードリー・ヘップバーンが黒いドレスを着て企み顔で頬杖をついている映画の方を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。映画の方は見ておらず不勉強で申し訳ないのですが、原作と映画では物語もだいぶ違うみたいです。今回は新潮文庫の村上春樹訳のものを読みました。
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ホリー・ゴライトリー
 
物語の主人公ホリー・ゴライトリーは気まぐれで天真爛漫、いつも色んな男からお金を貰って生計を立てている女優の卵で、とにかく自由奔放を絵に描いたような人物として書かれています。語り口の小説家志望の青年を含め、ホリーゴライトリーが何かトラブルを起こし、登場人物たちを引きづるようにして物語が進んでいくので、読者もホリー・ゴライトリーが何をしでかすのかおのずと注目しながら読んでいくことになります。
とはいえ、ホリーゴライトリーが自己中心的な女王様タイプかというと、言いようによっては自己中は自己中なんですけど、それとは若干違った印象を受けました。なんというか「私のすることに構わないでよ」タイプ。自分のしたくないことはしないし、やりたいことは反対されてもやる。純真で人の誤解を恐れず、その誤解も解こうとしない。
現実と折り合いがつかないけど底抜けに明るいタイプで不思議と人を引き付けてしまうけど、捉えどころのない人物。ホリー・ゴライトリーに目をつけた俳優スカウトは、彼女を「本物のまやかし」と評しますが、確かに読んでいるとそんな印象を受ける人物です。村上春樹は、ホリー・ゴライトリーをオードリー・ヘップバーンのタイプのような女性として設定していないと訳者あとがきで載せていましたが、確かに型破りなホリー・ゴライトリーとはイメージと合わない感じはしますね。
ホリー・ゴライトリーほど突き抜けた人物を実際に演じることができる人物はなかなかいないのではないでしょうか。
 
この話、映画にできるの・・・?

 

映画版を見ていなくて恐縮ながらも、小説の方しか読んでいない人間の率直な感想を言うことが許されるなら、この小説は単純に映画に不向きなのではないかと感じました。人が納得するようなオチがあるかというとそういう訳ではなく、映画ではカポーティの文章のバランス感覚とかも分かりようがないからです。ホリー・ゴライトリーも物語の上でしか存在しえない人物だと思うんですよね。

とにかく映画版も気になるので、見てみようかなと思います。オードリー・ヘップバーンの映画だし。
 
ちなみに新潮社の『ティファニーで朝食を』には、他にも『花盛りの家』、『ダイアモンドのギター』、『クリスマスの思い出』が収録されています。
『クリスマスの思い出』も個人的に印象深い短編でした。ご一読をお勧めします。