【簡単に読書録】亡命作家ミラン・クンデラの代表作『存在の耐えられない軽さ』を読んだよ【おすすめ度 ★★★★☆】

 

恋愛小説ではあるものの・・・

今回、紹介するのは、ミラン・クンデラの『存在の耐えられない軽さ』 です。

タイトル、かっこよくないですか?

存在の耐えられない軽さ (集英社文庫)

存在の耐えられない軽さ (集英社文庫)

 

 

『存在の耐えられない軽さ』は、恋愛小説にジャンル分けされます物語ですが、東西冷戦の最中、社会主義国家のチェコスロバキアで起こった「プラハの春」が背景になっています。

「プラハの春」とは、社会主義国家のチェコスロバキアで巻き起こった民主化運動(検閲の廃止とか経済改革)を指します。しかし、ソ連側の軍事介入で、この民主化運動は実を結ぶことなく潰えてしまいます。著者のミラン・クンデラは、民主化運動側にいる人間だったので、ソ連の軍事介入後、著作は発禁処分となり、パリへ亡命することになった作家です。

 

それゆえに、恋愛小説であっても、冷戦時の重苦しい雰囲気漂う小説になっています。ちなみに、『存在の耐えられない軽さ』は世界的なベストセラーになった小説で、ミラン・クンデラをノーベル賞候補者の一人に押し上げることに繋がった代表作の一つです。

 

「究極の恋愛小説」と銘打たれた小説ではありますが、普通の恋愛小説だと思って読むと、おそらく挫折するでしょう。

例えば、小説の書き出しの部分。

永劫回帰という考えは秘密に包まれていて、ニーチェはその考えで、自分以外の哲学者を困惑させた。われわれがすでに一度経験したことが何もかももう一度繰り返され、そしてその繰り返しがさらに際限なく繰り返されるであろうと考えるなんて!いったいこの狂った神話は何をいおうとしているのであろうか?

(集英社文庫 千野栄一訳『存在の耐えられない軽さ』P6)

特にここの序章の部分は小説の中でも、相当かみ砕いて読まないと難解な箇所なのですが、「存在とはなんぞや?」「愛とはなんぞや?」「人間とはなんぞや?」みたいなところまで踏み込んでいくので、恋愛小説とは言っても、電車の中で気軽に読めるような小説ではないかも知れません。

分からないところや難解な箇所を読み飛ばしても、十分に面白い小説なんですけどね。

どこか胸に引っかかるところはある小説だと思うので。

 

とはいえです。この小説、めちゃくちゃ面白かったです。

単なる恋愛小説ではないため、気軽におすすめはできないので、

おすすめ度は★★★★☆です。

 

全てにおいて完成されている小説だなと、読了後に感じました。

とにかく、すごい小説です。

 

簡単にあらすじ

優秀でありながら、超がつく程の女好きである外科医トマーシュが、田舎でたまたま偶然出会った純情なウエイトレスであるテレザに出会い、一目惚れしてしまう話。

 

200人の女と寝てきたトマーシュは、性愛的な恋愛をアグレッシブな恋愛にしないために、三という数字のルールを設けていた。

一人の女と短い期間に続けた会ってもいいが、その場合は決して三回を超えてはだめだ。あるいはその女と長年付き合ってもいいが、その場合の条件は一回会ったら少なくとも三週間は間を置かなくてはならない

(集英社文庫 千野栄一訳『存在の耐えられない軽さ』P18)

 

テレザは家庭のことで悩みがある。人前で平気で屁をこいたり、裸で歩き回っている母親に嫌悪感があるものの、母親の結婚の負の遺産という自覚もあり、母親の束縛から抜け出せずにいた。そんな状況に現れた運命の人トマーシュに一目惚れ。

テレザはトマーシュの家まで、押しかけ、そのまま結婚してしまうことに。

 

トマーシュはトマーシュで、テレザに対して、憐れみと愛情と性愛の入り混じった感情を抱いてしまい、トマーシュが意識的に避けていた熱烈な恋愛感情を持つ。それでも、トマーシュの不倫癖はとめることができない。

 

嫉妬を感じながらもトマーシュを見限れないテレザと、女好きはやめられないものの他の女みたいにテレザをあしらうことができないトマーシュ。

お互いに離れることができないまま、社会的な弾圧のある国家の力に押し潰されていくように、「重い」存在として堕ちていく・・・みたいな話です。

 

小説の構成

『存在の耐えられない軽さ』は、小説の構成も独特です。

 

第一部と第五部の「軽さと重さ」はトマーシュ視点

第二部と第四部の「心と身体」はテレザ視点

第三部「理解されなかった言葉」と第六部「大行進」は、トマーシュの不倫相手である奔放な絵描きのサビナと、そのサビナの不倫相手フランツ視点

 

第七部「カレーニンの微笑」はトマーシュとテレザ、そして二人の飼い犬であるカレーニン視点

 

後半の第五部終盤から第七部の結末の怒涛の勢いで、一気に飯を飲み込むように、読んでしまいました。

特に第七部は、客観的に見ると全然救われていないんだけど、全てを知っている読者にとってはなんだか救われたような感動的な気分になります。

本当にいい小説です。

 

人間の本質の部分をつく小説

『存在の耐えられない軽さ』は、ありふれた恋愛関係を綴った小説ではありません。

 

トマーシュやテレザ、トマーシュの不倫相手にして社会主義国家であるチェコから亡命した絵描きのサビナ、サビナの不倫相手のフランツ。物語の登場人物の各々のあり方

を通じて、人生とは、社会から見た一個人の存在とは「軽いものなのか重いものなのか」考えさせられる小説だと感じました。

そういう意味では、究極の恋愛小説かも知れません。

愛というものは、愛し合うことを望むのではなく(多数の女性との関係を望む欲望)、一緒に眠ることを望むものである。(一人の女性に限られた欲望)

 (集英社文庫 千野栄一訳『存在の耐えられない軽さ』P22) 

 

 人間というものは、ただ一度の人生を送るもので、それ以前のいくつもの人生を比べることもできなければ、それ以降の人生を訂正するわけにも行かないから、何を望んだらいいのかけっして知りえないのである。

 (集英社文庫 千野栄一訳『存在の耐えられない軽さ』P13) 

 

一読に値する小説だと思うので、読んでみることをおすすめします。