【NZワーホリ】ブルーベリー農園の裏側…人生初のストライキをする【ニュージーランド奮闘記】
毎日が刺激的すぎる
前の記事では、単なる職場紹介、田舎のスローライフの概要を紹介するに留まったがここからが本題だ。
スローライフの言葉のニュアンスに惑わされているのだろうが、農場生活はサバイバル的な色彩を帯びる事柄も多い。
今もぎりぎりの通信環境の中、スマホを通してなんとか深夜帯にブログを書いているわけだが、キャビンの中に入り込んだ蛾がスマホの光に集まってきて大変うざい。まあ、これは下らないことだけど、食用のアヒルを締めたり、ストライキを起こしたり何かとワイルドだ。とても刺激的でエンジョイしているものの、犬や猫が人語で話したりする「どうぶつの森」的な平和な世界を送っているわけではないのだ。
今回は住居から徒歩30秒の職場で起こしたミニストライキのことについて記事にしたいと思う。
理想的な職場は存在しない!
これはともすると忘れがちだが、この世に完璧な職場は存在しない。
前の記事ではいいようにしか紹介していないが、時間管理と賃金等がかなり杜撰な職場だ。
とりあえず、職場について簡単に説明しよう。
今、ぼくがいるのはブルーベリー農園で、収穫した分だけお金になる歩合制のピッキングと時給制のグレーディングの仕事を主にしている。時々、羊のケツを掃除したり、マーケットでの売り子の仕事をボランティアでしたりする。
同僚も無論いる。
この職場、実は日本人がとても多い。農場近くに在住する日本人が少し農園の管理をしていたり、同じ日本からのワーホリも4人もいる。この前は5人だったのだが、この職場が違法気味であること、ニュージーランド在住の半ボーイフレンドと離れ離れなのがストレスであることをあげて、農園に来てから1週間で迎えに来た半ボーイフレンド(本人に言わせれば)と尻を振りながら出て行った。
後は5ヶ国語できるインテリマレーシア人、男女の二人の韓国人(カップルではない)と共同生活だ。
マオリなどの現地人も自宅から働きに来る。15歳の少年が働きに来たりもする。つい先日、ニュージーランド人の同僚のオークランドにいる息子さんが自殺をしたという電話を受け血相を変えて出て行くのを見て、ニュージーランドでも神経を病む人はいるのだなあとぼんやり考えていたわけだけど、まあ、ぐだぐだこんなことを紹介していても仕方ない。
本題に入ることにする。
あらやだ…私の仕事…最低賃金以下…?
主に不満点は以下の3つである。
①ブルーベリーとはいえ、歩合制のピッキングの仕事で稼ぐのは中々大変だ。(雑にピッキング すれば稼げる仕事ではある)
最初のうちはどうしても最低賃金以下になってしまうのだが、それは違法なので、最低賃金に満たすように賃金の底上げ(トップアップ)という救済措置が取られることになっている。このことは契約書に記載されている。
それがトップアップされてない。もしくは足りない。
②午前、午後に15分の休みを2回ずつは必ず取らなくてはならず、昼休みは1時間休まなければならないと法律で決まっており、これも契約書に記載されている。だが、ほとんど休みなど取ったことがない。
③無給労働もあり、休みの日なんかはいい経験になると称して、他の仕事に駆り出されたりすることもある。たしかにいい経験になるのかも知れないが、タイムカードがなく時間管理も杜撰なのでどこからがボランティアでどこからがジョブなのか分からない状態で働かなくてはならない。
要約すると、
①最低賃金が貰えない
②時間管理が杜撰
というのが主な主張になるわけだが、じゃあぼくが正面切って主張したのかというと、日本人の中でも気の弱い人間がそんなことできるはずもなく、韓国人が雇用主に主張するのを後ろから見ていただけである。
さらに付け加えるなら、いかに環境を変えようと自分の性格は変えるのはどだい無理な話で他人との関わり方は宿命的なものだと感じざるを得ないのだが、韓国人に
「俺たちみんなで抗議するわけだから、たとえ雇用主にお前に対して同意を求めてきたとしてもイエスと言わないこと。ジャストスマイリング。オーケー?」
と言われた。
そこで愛想笑い防止のために自分用にコーヒーを淹れて、愛想笑いしそうになったらコーヒーを飲み腕を組み顔をしかめるという作戦を取ることにした。
もはやここまでくると、情けないのもご愛嬌である。あって欲しい。
こんな風にストライキは起こった!!
給与明細を受け取り憤慨した夜に打ち合わせて、交渉は朝に行うことにした。
話に応じずに働けと言ってきたら、そんなバカな話ないから肩が痛くて働けないことにすること、必ず全員で主張することなどを話した。
話の切り出し役は韓国の女性の方である。
事前にコピーを取った契約書を見せ、この文章とは話が違うじゃないかと切り出した。
天気の良い朝にいきなりアキレス腱を蹴られた雇用主はすぐに狼狽えた。基本的に人はいい(表面上は)のである。必死に話を晒そうとする。英語が分からなくてもそのくらいは分かる。
「俺は疲れているし、忙しすぎて休憩なんてしていたら日が暮れちまう。勘弁してくれ」
「じゃあ、契約書は嘘だってこと?」
容赦なく切り込めるあたりが強い。コーヒーを飲む。のどがごくんと鳴る。
「こんなバカげた話に付き合ってられるか!」
と雇用主は家に帰って行った。
ストライキというか、ただの休みになった。申し訳ない。ストライキというのは過剰な表現だったかも知れないが、ぼくの中ではストライキするくらい大胆な行動だったのだ。何も話しちゃいないけど。韓国人は話もろくに聞かない雇用主に呆れて、バイバイと聞こえよがしに言った。
それから、気分直しにダンゴでも作って食べようということになって、ダンゴパーティをした。日本人女子らしい発想である。
しばらくダンゴを食っていると雇用主の妻が来て、話を聞こうということになった。
「主人は本当に寝室で狼狽えている。それが彼のウィークポイントだったし、本当に忙しくて疲れてもいたから」
「給与の計算も合わないんだけど」
給与の計算の確認が始まった。時給制の時間が足りなかったり、しまいには過剰な言い訳の末にトップアップするのを忘れてたとかぬかしたりする。
それでもこちらの主張は聞き入れられた。
円満解決という雰囲気で、雇用主の妻は帰り、午後から仕事ということになった。
めでたしめでたしかと思いきや、その30分後農園のオーナーであり、雇用主の父親が登場する。
「グッドモーニング」
「何がグッドなんだ。胸糞悪いわ」
このオーナーは厄介な爺さんで、ボランティアワークを強制したり、ブルーベリーを丁寧にピッキングしろと言ってくる。確かに正しいのだが、彼の言うやり方でピッキングすると全然稼げない。最低時給が補償されないにもかかわらずである。
おまけにセクハラ親父で、ボランティアしていると身体をペタペタ触ってきて勘弁して欲しいと女子受けがすこぶる悪い。ボランティアワークの時に女子に守ってと頼まれたがつくづくめんどくさかった。
「お前たちには失望した。こんなにいい経験ができて、たくさん学べて、お金も稼げるし、快適な住居も用意している。それをそんな形で返されるとはな」
「ちょっと落ち着いて…コーヒーでも飲んで…」
「なんだお前たちは。休みだってあるし、こんな素晴らしい農園はどこ探したってない。他では体験できない経験だってさせている。それをなんだ!失望した!」
「本当に素晴らしい農園だっていうなら、私の給与を最低時給までトップアップするのがスジでしょ?私たちこそ、あなたがたには失望しました」
これは日本人女子のセリフ。失望したと言われて、カチンときたのである。そして、思わぬ反撃をくらい突然狼狽えはじめるオーナー。
「さっききちんとコミュニケーションを取りました。これ以上何かを言われる筋合いはない」
「ちょっと…落ち着いて…コーヒーでも飲みなさい」
それから、話を聞いてくるとオーナーは家に向かった。
ぼくは何をしていたかと言うと、首がいかれるくらい頷いてはカップにもう残ってない目には見えないコーヒーをすすっていた。
そんなこんなで解決したが…
気まずい。職場がギスギスしている。
午後になると雇用主はサングラスをかけ、悪かったと謝った。
「君たちの言うとおりだ。改善の努力をしよう」
だが、予想以上に雇用主は狼狽えていて、フレンドリーさが持ち味だったのに、今でも完全に萎縮している。
さて、これは余談だが、ぼくにとって怒りの種でもある。ついさきほど起こったことだ。
職場があまりにギスギスしすぎているし、ボランティアワークをしないという態度を取っているので、雇用主の負担が大きくなりすぎている。
とりあえず解決した話だし、ピッキングしたブルーベリーを冷蔵庫に入れるだけのみんなでやれば5分で終わる仕事の手伝いをしないのも極端な話だと思い、ヘルプに行くことにした。
感謝されたかったわけではなく、こちらは雇用主の多忙を理解しているから次からはきちんとしてくれという意味合いで行動したわけだが、このくらい手伝いにくるのは当然だろといわんばかりの態度を取られるのはムカつく。同僚もキッチンで物好きなやつという視線で見てくる。どうせ仕事するなら、気分良く終わりたいというのもあった。
さて、ここがぼくの救いようのないほどにどうしようもないところなのだが、ブルーベリーの入ったトレイを上の方に載せる時に上ばかり見ていて下に注意を向けておらず、滑車で盛大にすっ転んだ。
ブルーベリーが下に落ちないようにしたため、強烈に足を捻った。今も歩くのが難しいくらい痛い。にも関わらず、雇用主も同僚も仲良く蔑みの入った憐れんだ目を向けてくる。
善意など時にただの押し付けになるわけだから、これに懲りて、もっと人には冷静に功利的に接するべきである。同情心などただの病気だ。
ボランティアなぞ、もう死んでもやらない。馬鹿馬鹿しい。